漆工 綿引千絵の奮闘記
 
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汁椀と飯椀
 みなさまはどんな食器でご飯とお味噌汁を食べていますか?
 漆器といえば一番馴染み深いのが箸と汁椀。私にとっても、子供の頃から使ってきたのは箸と汁椀くらいだった。ご飯茶碗は漆器ではなく、だいたい白っぽい磁器が多かったように思う。おそらくそれが一般的な日本のごはんスタイルでもあるんだろう。
 でも私はせっかく漆を始めたのだから、もちろん漆の飯椀は作っていこうと思っていた。「漆器で食べる飯はうまい!」とみんな言う。そうなんだろう。早く作りたい。早く汁椀と飯椀を作って、我が「中野下漆器店」の中心定番商品にしたいものだ!善は急げ!
 でも、日常的に漆椀でご飯を食べるという経験をしてきていないので、飯椀はじっくりイメージしてからでないと形を決められない気がして、結構長いこと保留してきた。考え出すとなかなか悩みどころがあるもので、最も難しく思うのが汁椀と並べたときのバランスだった。やきものとぬりものが並んだ感じがもう頭に染みついているので、漆二つを並べたとき、同じ大きさでもヘンに見えて、どちらかが大きくても釣り合わない感じがする。形にしても、おんなじシルエットではうっとうしく、違う形だとしてもその違い方によってはちぐはぐになる。セットで使うときにしっくり来るのはどんな形なのだろう。
 そこからあれこれ思案した過程は後回しにして、結果はこんなふうになりました。木地は去年の11月にめでたく出来上がりました。写真左が飯椀で、右が汁椀です。



 今年はこれを新商品にするぞ!新しいものはやはりワクワクする。飯椀は小振りなので男性の手と胃袋には足りないかもしれない。この形でひとまわり大きいものも作りたいな。

 私は、塗りの技法にしてもデザインにしても、「自分の感性でオリジナルに、他にないものを」という発想ではなく、「理に適ったやり方で、歴史の知恵を踏まえた形で」と考える傾向がある。歴史を振り返ると、ある食器がその形状に落ち着いた理由、それを心地よく思う美意識とか日本人の気分みたいなものが見えてくる。その中に普遍的な要素があれば、それはきっと引き継いだ方が現代でも使いやすい物になるんだろう、と思っている。そこから現代ならではの事情や自分の感覚に合わせて、足したり引いたりして器を作っている。
 飯椀・汁椀にしても昔のスタイルを参照すれば割と簡単に形が決まりそうなものだが、実はそうはいかない。ご飯を食べる食器は今に至るまでずいぶん変遷があったようで、不変の形があったわけではないのだ。お米を食べる文化は縄文時代の終わりから続いているというのに。
 
 ここで昔の飯椀はどんなものだったか、その変遷を書きたくて、きちんと調べてから記事にしようなどと昨秋から企んでいたのだが、いっこうに実行せずズルズルと今年になってしまった。きちんとまとまった内容で書こうと思うからなかなかブログを更新できないんだなぁ。「うるし日記」どころか「月記」でも危ういペースで、定期的に来てくださる人には申し訳ないなと意識しつつ、しかし相変わらずこの調子です。すみません。
 
 知っていることだけで言うと、漆椀で食事するスタイルでは、飯椀が大きくて汁椀はひとまわり小さい。お坊さんの食器でもある四つ椀は、大きい順に飯椀、汁椀、おかずの椀、お新香の椀という具合に使われる。江戸や明治のせともの茶碗になるとすでにサイズが小さめなのはなぜかな、と思うけれど、食べる量が減ったというよりも、陶磁器は重いのでなるべく小型化したかったのだろう。お櫃を傍らに置いて何度もおかわりしていたかもしれない。もっとも、都と農村では食べ物も食べる量も食器も違っただろうから、その辺も一概に言えないかもしれない。
 ともかく、昔の飯椀は大きかった(ことにする)。ご飯が食事の中心で、おかずはほんの少しだった。でも現代の食事はおかずが豊富だから、ご飯は平均して少なめだろう。だからご飯茶碗も汁椀より小さいか同サイズくらいが普通みたいだ。
 
 また、昔(中世以降?)はちゃぶ台でもテーブルでもなく、銘々の膳で食事をしていた背景も考えなくてはいけない。食べるときは正方形の中に食器が全部収まって、しまうときは一人分の食器を一式重ねて箱膳の中へ入れる。そういうスタイルに適していたのが四つ椀など昔の椀だったのだろう。一つが端反りで一つがまり椀だったら重ねにくい。平たいミート皿も置けない。だからすべてを大小の椀でまかなう。
 今は違う。一人の食器を全部重ねる必要はないし、重ねたとしても汁椀と飯椀だろう。むしろ、家族分の汁椀をまとめて置き、飯椀は飯椀で、食器の種類ごとに重ねている家庭も多いだろう。そういう意味では、現代の食器はある程度自由な形状でもいいということだ。片付けたときかさばらないのは切実な願いだけれど。

 それから、昔の食器を目にするたびに気になっていたのが、汁椀が浅くてすぐ冷めそうだ、ということだ。あんなに(直径2:高さ1の割合)浅いのは持ちやすさのためにそうしたのだろうか。私は熱いものを少しでもぬるくなった状態で食べるのが本当に嫌いなので、かねがね浅いお椀が不満だった。
 昔の椀に限らず今も、せともののご飯茶碗ですーっと逆さの八の字にひろがった浅いものがあるが、形はきれいだけれど、あれはご飯がすぐ冷たくなりそうで何となく苦手に思っていた。

 こんなふうに食のスタイルが今と昔では異なるので、昔の椀の大きさ、並べ方などは考慮に入れないことにした。今回は現代人の食卓に合うように、それだけを考えて形を決めた。そして諸々の自分の願望も盛り込んで、飯椀はやや小さめで深め、汁椀は浅くはしないけれど、あまり深くても味噌汁が池の水みたいに見えるからほどほどに、そしてどちらも冷めやすくない形を心掛けた。
 飯椀・汁椀というのは百人いたら百人の好みの形があるのだろうから、結局自分が作るのは自分にとって不快でない形を追求したものになる。これからお客様と接して一つずつ売っていく中で、また普遍的な要素を見つけて拾っていきたいと思う。それらを品物に反映させられたときに私の飯椀・汁椀が完成するのだろうと思っている。楽しみだな。楽しみにしていただけたら有り難い。
 
【2008.01.26 Saturday 11:22】 author : chiewatabiki
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