漆工 綿引千絵の奮闘記
 
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「町の漆器屋」の仕事
 最近こんな仕事をしました。
 「こんな器がうちにあるんだけど、このまま使うのはちょっと…。これに漆塗ってもらえますか?」お客様はこう言って白木の鉢を差し出された。



 手彫りの輪花鉢。柔らかい材質のようだ。たしかに、このまま使うと料理の汁を吸いまくってしまうだろう。木の種類は判断できなかった。でも、輪島の鉄鉢に使われていた木地に質感が似ている。見たところオイル仕上げが施された雰囲気でもない(油分がある所では漆は乾かない)。これなら塗れそうだ、と思ったのでお預かりした。

 お客様のご依頼はまず赤にしてほしい、それから、旅のお土産にいただいた手軽な物なので簡単な塗り方でいいです、とのこと。私も「そうですね、下地はしないで3回くらい塗り重ねる感じにしましょうか」と提案した。
 ただ作業に入ってみると、かなり手彫り感がある木地で凹凸が著しいことに気付いた。これでは、上塗のとき窪み部分に漆が溜まって縮んでしまう可能性がある。うまく仕上がったとしても、デコボコに光が反射してきたならしく見えてしまうかもしれない。それで、お客様の了承をいただいて、下地漆で穴埋めする工程を追加した。
 出来上がりはこちら。


 
 素晴らしい塗りではないが、これで使える器になったと喜んでいただけた。

 私はこういう仕事っていいな、と思っている。木に漆を塗って強くするというのが漆工の原点だから、「これ使いたいから塗って」と町の漆器屋に物が持ち込まれて、塗られて、人の生活の中に戻っていく、それはぬりもの業の自然なありようだと思う。それを気軽に普通にできる状況があったらなおいい。
 だから私は自分の作品でなくても、使い手が身近に漆器を置いて漆の特性を享受してくれるなら、どんなものでも塗りたいと考えている。みなさまもお手持ちの木の器、箱、板、台、テーブルなどなど…古くなったら漆器に生まれ変わらせてみませんか?黒や朱のぬりものにするも良し、拭き漆で仕上げて木目を味わうも良し。元がオイルフィニッシュのものでも、時間が経っていれば油分が抜けている場合もあるので、新たに漆を乗せることができる。質感と色が変わるだけで、初めて出会ったもののように違う雰囲気を楽しめますよ。
 上に紹介したお客様にはもう4件仕事をいただいた。一つは私の商品「カレースプーン」だが、あとは修理や塗りのご依頼だ。はじめは蒔絵五段重の修理。次は花台(材はおそらく紫檀)の拭き漆。そして今回の鉢だ。そうやって一つずつ、ご自分の持ち物を使い継ぐために漆を塗り、結果として身の回りに漆器を増やしていかれる暮らしぶりは素敵だなぁと思う。


 漆にはこんな気軽な楽しみ方もある、ということを書いた。でももちろん、材料・形・塗り方すべてに作り手の意図が反映された作品にはプラスアルファの良さがある。私も「こんな漆器がいい」という思いは自分の品物で展開していくので(ぬりもの しばらく更新しておらずすみません)、そちらも見守っていただけたら大変大変有り難い。よろしくお願いします。
【2007.07.14 Saturday 10:10】 author : chiewatabiki
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この記事に関するコメント
うわー!断然かわいくなったねぇ。お花みたい。
そうだね、最近雑貨屋さんとかでもいろんな漆塗りの雑貨を見かけるようになったものね。そうやって自由に用途を広げていけるものなんだね。
携帯電話とかiPodケースも漆のがあったらおもしろいだろうなぁと思うけど、やっぱりそういう持ち歩くものには適さないかしらね…
| kyoko | 2007/07/22 9:34 PM |
kyokoさま

ありがとうー!
朱から黒に塗り変えたり、白木に拭き漆をして木目が浮き立ったり、その時の新鮮さを私自身楽しんでいるので、紹介さえすればきっと他の人にとっても面白いのでは、と思いました。

そうそう、いろんなものに漆は塗れるし、それが雰囲気だけでなく防水・防腐・キズ防止とか機能面でも理に適っていたりします。まだまだ可能性はありそうだなぁ。

携帯電話といえば、携帯に漆を塗っている人、意外といるんです。中でも輪島の桐本さんのはセンスよくフツーに‘携帯のデザイン’として成立してるのがすごいと思いました。日本橋三越「輪島キリモト」にありました。よかったら記事ご覧ください。↓
http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0504/05/news086.html
あと、町田の渡辺さん(「求職中の方へ!漆の仕事はいかが?」の項参照)もチタンやアクリルやガラスに漆を塗った製品を出しています。↓ 
http://www.duco.co.jp/yoshiki.html

私は、家電とか工業製品を漆器にする必然性って…どうなの?と考えてしまって、今は自然素材の木や革や布にしか塗っていないのですが、桐本さんの漆ケイタイを見たとき違和感を受けなかった自分もいたりして、私は観念で考えすぎなのかも、と思うこの頃です。
| chie | 2007/07/23 10:25 AM |
ほんとだー。全然知らなかったよ。
確かに携帯は普通にシックな感じになってて違和感ないし、使い込んでもとっても良い感じになりそうね。落っことしちゃうのがちょっと心配だけど。
ステンレスポットも素敵〜私ちょっと前にお店でレザーのカバーがかかったポットに惚れてしまったことがあり、でもこれお茶が垂れたらしみになるしと思って(値段も高かったけどね)ぐっとこらえたの。そこのところは食器出身の漆に軍配が上がりそう。
私はどうも木とか鉄とか「地球から取れました!」っていう素材感の物が好きなので、ついつい電化製品も往生際悪くナチュラルっぽいものに目がいっちゃうの。そうはいっても本体はプラスチックだったりするわけなので自己満足なんだけど、原始的に手触りに頼って物を選んじゃうんだよねぇ。
| kyoko | 2007/07/27 11:17 PM |
携帯やポット見てくれたんだね。
桐本さんの携帯、蒔地(まきじ)の方は少しざらざら感を出した塗り方でとっても強度があるんだよ。もしかしたら、アスファルトに落としちゃってもキズが目立たないかもしれないです。

kyokoの消費者としての感覚、すごく参考になるわぁ。ありがとう。
作る側からすると「漆を塗る」のが大前提で、そこから何に塗るかどう塗るかを決めていく。
でも使い手は違うよね。「ものが欲しい」がまずあって→おしゃれなもの、ナチュラルなもの、心地よいものを探していたら→「これいいな」→「あ、漆なんだ」、こうやってたまたま漆にたどり着く場合があるものね。
「可能性」という広大な海があるとして、一方は漆を前提に攻めていき、他方は「いいもの」をキーワードに攻めていく。両者の間に空白が残る。作り手はその空白地帯を探検する勇気が大切だなぁ〜と思ったわけです。

時々懐かしく思い出すものの一つに、幼少期に見ていたテレビがあります。昔のテレビ…箱みたいに木の板で囲まれて、家電だけど家具という感じで、今思えば丁寧感とあたたかさが漂っていたかもしれません。
素材が無機質でも見た目や手触りが心地よくあってほしい、そのヒントがこんなところにあるのかなぁ。
| chie | 2007/07/28 10:58 AM |
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