漆工 綿引千絵の奮闘記
 
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時を継ぐ仕事 修理
 今年に入ってずっと修理品と格闘してきた。今週でようやく、去年預かった物は全部納品できた。あー肩の荷が下りた。感謝感激だ。

 少しご紹介します。



 これは鏡(物を載せる面)と縁(立ち上がり)の木地が完全に離れてしまっていたので漆で接着し、下地から塗り直して金縁もやり直した。印籠と扇子の蒔絵がある鏡はそのまま残した。




 こちらも元は、上と同様の角盆だった。でも、縁の曲げ輪が脆くなってバリバリと壊れていたので、ご依頼主様に相談したところ、縁を取り去って代わりに4つの足を付けてほしいとのご希望。足だけでは心もとないので、鏡の周りを下地漆で盛って低い縁にした。塗り直しの色は、鏡の朱色と金が目立つようにと、黒にした。これも依頼主さんと相談するうちに、それがよいということになった。

 
 修理品は一つずつ違うのでそれぞれ思い出深い仕事になる。それに作られた時代の雰囲気がデザインから感じられるし、生産地の技法がわかって勉強になるのも修理ならではの醍醐味だ。中には、戦争中で材料が不足していたのか、布着せの代わりに新聞を漆で貼り付けた盆を見たことがある。木地でも和紙でもなくボール紙のようなボディに漆を塗った盆もあった。
 
 今私が苦しんでいるのが、蒔絵や沈金の絵柄を残して他の面を塗り直す場合の作業だ。いかに絵柄の面に傷を入れないで維持しながら作業を進めるかが、私にとっては難しい課題なのだ。
 修理といえば、小刀で溝を掘って漆を埋めたり、粗いペーパーやすりをかけて漆を研ぎ落としたりする。保護したい絵柄の部分はマスキングして隠しておくのだが、作業部分と絵柄が隣り合っていると、マスキングを外さなければいけないときもある。
 修理品は古い物だと漆の塗膜自体が弱くなっているので、簡単に傷が入ってしまう。蒔絵の金粉も漆で接着してあるから、少し擦れただけでも取れてきてしまう。そんな繊細な注意が要る蒔絵面の横で、下地の基礎工事をガチャガチャやるわけだから漆の粉がちょっと飛んだだけでもヒヤヒヤする。慎重にやるから時間もかかる。
 でもご安心を。塗り直さない面にも漆を摺り込んで、それまでより強い状態にしてお返ししている。蒔絵部分にも摺り漆で保護膜ができるので、少し強くなり輝きも取り戻す。文化財修復並の扱いはできないので塗り直さない面に多少の傷が入ることは避けられないが、その傷も摺り漆を重ねるとほとんど目立たなくなる。

 
 修理品は難しさも手間も、新品を作る比ではない。もっと経験を積んでもっとノウハウを身につけて手際よくならないと、利益が出せない。
 でも何とか修理は続けたいなぁ。修理してこそ漆が文化として成り立つんだろうと感じているから。修理しなければ循環がストップしたままだ。使い手としての楽しみを考えれば、新品の器に出会うだけでなく昔の雰囲気が漂った器を持つ、おばあちゃんから受け継ぐ、そういうことがあるとないとでは漆の価値が違ってくるように思う。
 私は、お代を頂いた修理の仕事はまだ十数件しか経験がない。でも、生まれ変わった器を見たお客様は皆、直しものならではの反応をされる。それは驚きと喜びと、器を使い継ぐ誇りを含んだような感想だ。その声を聞くと、早く何とか作業を効率化しなければ、修理と製作が自分の両輪になるようにがんばらねば、と思う。
【2007.04.21 Saturday 11:41】 author : chiewatabiki
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この記事に関するコメント
スペースMの奈良です。能登半島沖地震で何かお役にたちたいと思っていたところに 千絵ちゃんからほんとうにいいお話でご協力できて嬉しくおもいます。 これから動きますので。。たくさん売れますようがんばります。
       奈良 富子
| | 2007/04/30 6:13 PM |
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