漆工 綿引千絵の奮闘記
 
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西田健二さんの片口
 少し前になってしまったが、5月27日に日帰りでクラフトフェアまつもとに行ってきた。初めてでいろいろと刺激を受けたので、何に感動したか整理できたら記事にしようと思っていたのだが、書く時間を惜しんでいる間に「まぁいいか」という気になってしまった。ひと言でまとめてしまうと、松本の街がとても気に入ったことと、漆の出展者も皆さんがんばっていて励みになったことがよかった。
 
 そのクラフトフェアで、一つの片口を手に入れた。久しぶりに「物に出会った」感覚をおぼえた。
 薄緑と薄水色を混ぜて薄めたような色合いの青白磁で、大きさは抹茶茶碗よりひとまわり小振り、値段は3000円、作者は九谷の西田健二さんという若手の陶工さんだ。この片口を見つけて持ち帰ってからずっと眺めているが、まるで飽きない。何度見ても好きだなーと思う。普通、気に入って買った物でも、慣れるほどに「ここがもうちょっとこうだったら完璧なんだけど」というような小さな欠点が気になってくることが多いのに、この片口には「このように生まれてきてくれてありがとう」と言いたくなるほど不満が出てこない。自分に合った物というのは、姿形から、出会い方、買った状況まで全てが必然に思えてくる。
 いま思うと、店先に何の主張もせず並んでいたそのさりげなさすら、かっこよい。クラフトフェアまつもとは毎年200人以上が出店するから、一巡するだけでもくたびれる。まずざっと廻って、それから2周3周してじっくり見た。西田健二さんの店に惹きつけられたのは3周目の時。とーっても地味と言っては失礼だが、本当に控えめな店構えだ。会場には若手の作品が多く、はじめは割と若者的な、奔放な絵付けの陶器やナチュラルライフ系の白い器の店が目について、西田さんの店は素通りしていたらしい。それもそのはず、他と違って食器はほとんどなく、書道の水滴や一輪挿し、小ばこなど小物がこぢんまりと並べてあった。そのうえ淡い色調だから、なおさらひっそりしているのだ。でもよく見てみると、どれも作りがしっかりしているというか、(目利きぶるようだが)自然と信頼感が湧くような確かさがある。きっと職人修業をした人で技術があるんだろうな、と思った。それでいて、ただ上手い印象でなく素敵に見えた。惹かれた!そして、店番をしているご本人がまた、朴訥そうでとても控えめな方。セールストークは一切ない。
 「この人のなら何か欲しいな。あとでまた…」と思った時、片口が目に入った。「あれっ、きれいな形!」手に取ってみた。掌に収まる感じがよい。胴のふくらみが丸すぎず直線でもなく、とってもいいラインなのが一番気に入った。小さな注ぎ口を作ったことで口縁の円が歪んでいるが、その崩れ方も行き過ぎない感じだ。縁と注ぎ口が薄作りなので上品な雰囲気だが、持ってみるとほどよい重量感があるので安心する。小振りなボディに低高台というバランスも丁度!な感じ。色と形も合っていて、全体はシンプルで可愛らしい。思わず「きれいな片口ですね」と話しかけてしまったが、西田さんは「はー」と答えたくらいだった。 ※今日の内容こそ、写真を掲載しないと意味がないような記事ですが、その機能が壊れていてできないのが申し訳ないです。描写だけですみません。
 ここまで気に入ったのに、貧乏な私はすぐには買わなかった。衝動買いはいけないこと!よく考えようとその場を離れた。でも上の空で何軒か見るうちに、「あれを買わねば!」と心が決まってしまった。同じく器を作る者として、これだけ美しさを感じたのに買って帰らなかったらその形もいつか忘れてしまうだろう。身近に置いて使ってよく味わえば感性も育つし、こんなちゃんとした器が3000円って考えてみたら安い。それで勉強にもなるんだから。これにお酒を入れたら、お酒の色がよく見えてきっときれいだろう。(余談だが、私はお酒を飲むが、まだ自分で漆の酒器を作ろうと思えない。お酒の色やとろみ加減を見えてこそ楽しいので、漆器だと美味しさも半減しそうで嫌なのだ。内に銀か錫を蒔いたらよいかもしれないが。できれば白っぽいやきもので飲みたい。)
 そして買いに戻った。その時、片口に水を入れさせてもらって注ぐ感じを確かめた。また感動!やっぱり、注ぐ時の水の動きがとてもきれい。そして、水切れの美しさ、これが本当に気持ちよかった。単に注いだあと垂れない、ということではなく、注ぎ終わりが美しいということを初めて知った。人間の美徳として「去り際が美しい」というのがあるが、物事の終わりとその余韻を大事にする美意識が、器の「水切れの美しさ」も生んできたのかなと思う。それでまた思わず「うわっきれいですね!」と言ったら、西田さんはまた控えめに「一応そういうつもりで作ったんで」。少しうれしそうだった。
 残念ながら、西田健二さんの個展情報などは一切わからず、ご自身のホームページもないようだ。でも、九谷で培った技術を活かしつつ、九谷ではなく無地の青磁・青白磁を作っている、ユニークでさりげない西田さんの器はこれからも見たい。

 実は以前は、青磁というのは何かいやらしいと思っているところがあった。骨董の青磁は時代を経ているからまた別だが、新品だと、わざとらしく静謐さを醸し出そうとしているようで、あの水色・翡翠色も綺麗綺麗しすぎて、料理を引き立てるより自分が主役気取りの器!と決めてかかっていた。でも3年前くらいから、大野耕太郎さん(北海道在住)の精緻だけどかっこいい青磁・黄磁や、高橋昌子さん(岩手在住)の有機的な形とマッチした優しい青磁を見て、少しずつ印象が変わってきてはいた。そこに今回、上品さと可愛さと潔さが同居した西田さんの片口に出会ったことで、青磁のマイナスイメージはどこかへ吹っ飛び、「青磁=この片口」になってしまった。
 
【2006.06.12 Monday 13:15】 author : chiewatabiki
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