漆工 綿引千絵の奮闘記
 
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菊地さんの拭き漆の器
 このところ拭き漆の頼まれ仕事をしていた。今日やっと、盛器8つを納品し終わってやれやれである。でも、毎日ケヤキの木肌に触れていられるのは心地よいもの。拭き漆は癒し系の仕事だ。特に上塗で苦戦して自信をなくした時ならば、拭き漆は埃を気にする必要もないし、木目の表情は漆が重なるほどに変化するので、鼻歌が出るほど心が弾む。

 拭き漆とは:
 木地に漆を塗り広げて染みこんだところを、直ちに布などで余分を拭き取ってしまう技法。なるべく念入りに拭き取る。乾いたらまた同じ作業を何度も繰り返す。拭き取っちゃうのなら意味ないじゃないかと言われるが、木目から染みこむ分でだいぶ木は丈夫になる。そしてわずかに残る表面の漆が何層にも重なることできれいな艶が出てくる。また、木の堅いところと柔らかいところで漆の吸い込み方が違うので、拭き漆を繰り返すうちに木目の模様がはっきり出てくる。模様の出方はやってみるまでわからない部分があるから、変化が面白い。漆を重ねる回数によっても違うし、漆の種類にもよる。
 
 拭き漆の依頼人は同じ町に住む菊地吉紀さんだ。近々個展を控えていて、それに出品したいとのことで少し急ぎの仕事だった。菊地さんは陶芸家で、地元で陶芸教室をしておられる。菊地さんは木彫家でもあり、ご自身の顔にそっくりな観音様を彫るらしい。木の器も作っている。
 私が菊地さんに出会ったのは去年の展示会でのこと。お友達に木曽の野口義明さんがいるということで、早速年末に野口さん宅にお伴させていただいた(「箸の作り方」の項は野口さん談)。そんなつながりから、今回拭き漆の仕事を頂いたのだ。
 菊地さんは、今までの木彫作品は白木のままか、オイルや他の塗料をかけて仕上げていたそうだ。漆仕上げの経験はあまりなかったというから、今回、作業途中の器たちをたびたび見に来ては「やっぱり漆は違うなぁ〜、高級になっちゃうもんだなぁ〜」と菊地さんらしい表現で顔をほころばせておられた。
 ケヤキの木目がどんどん美しくなっていくのは、私にとっても新鮮だった。椀木地や白木のボウル、ペン立てなど、手持ちのものに片っ端から拭き漆をして、多少実験済みではあった。でも、ちゃんと仕事として拭き漆をしたのは初めてだった。しかも、菊地さんが持っているケヤキ材はちょっとすごいのだ。
 長野県鬼無里にあったご神木が何かの事情で切り倒されたのだが、その樹齢800年のケヤキを1本まるまる譲り受けたのだそうだ。幹は大人が手をつないで十数人くらいの太さ。菊地さん曰く、どんなに作っても使い切れない量の木材だ。枝だけでも相当ある。私が預かった盛器はどれも結構な大きさで、直径40センチ以上のものもあったが、すべて枝の部分だそうである。そんな大木だからなのかわからないが、ひとくちに枝といっても木目や肌の色、艶の出方がそれぞれ違って興味深かった。木の性質に作り手の意思が加わって、どこまで漆を重ねるか、どんな質感を引き出せるか、考えながら作業するのが楽しかった。

 志木近辺の方は、よろしかったら是非見にいらしてください。

 菊地吉紀 陶木展
  陶器と木彫の器・仏像が出品されます。
  日時: 2006年5月25日〜30日
  場所: SPACE M & TERRACE  
       志木市本町1-2-2
       048-487-8486
  
【2006.05.17 Wednesday 19:26】 author : chiewatabiki
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