漆工 綿引千絵の奮闘記
 
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「アイヌ工芸―祈りの文様ー」を見て
現在日本民藝館(目黒区駒場)で開かれている、この展覧会へ行ってきた。

民藝館ホームページの画像を使わせていただきました。

以前 「アイヌの漆器?!」という記事を書いたときにも、アイヌに憧れを持っていると言ったが、アイヌの文化をまとまって見たのはようやく今回が初めてだ。

アイヌの手仕事品に囲まれて、形のリズムを目で追っていると、自分の中にアイヌの感性が少しだけでも移ってくるような感覚になった。アイヌの精神性を感じたくて、でも異質で不思議で、とても面白い時間を過ごした。

アイヌの文様「アイウシ」は「棘を持つ」という意味だそうだ。そのとおり、線文様の角や端っこがツンツンと尖ったり、棘が出たりしている。
アイヌの表現で何より惹かれるのがこの「アイウシ」だが、同じように柄に祈りを込めて連続文様を多く生み出してきた和人(=日本民族)が真似しても、決してこのようにはならないというような、独特の文様だ。

意味合いや精神性を考えずに、単純にパターンとして見ても面白い。
左右対称であっても、割と自由に非対称になっている箇所もあるし、平行な線が並んでいるところに微妙に斜めになった線も混ざっていたりする。
有機的な線は、草が伸びているさまのようでもあるし、動物の姿や顔のようでもある。
アイヌ民族は、人間も自然の一部として、都市化していない環境で生きている人たち、という感じがとてもする。
「この線がこう伸びて、こう曲がってここでお終いになっている!そしてまたこんなところから始まっている!」と線を辿るだけでも不思議な気持ちで満たされて、文字通り迷路に迷い込んだような感覚にもなる。
だから余計「こんな美を生み出せる人たちとは、なんなんだ…!」と神秘的な憧れが湧いてきた。

アイヌの作るものは素朴だ。素朴といっても、細工は至って丁寧で手の込んだものもあるから、“プリミティブ”という意味合いの素朴ではない。“ピュア”なのだ。そして、ピュアなものは強い力を持っているなぁとつくづく思った。すっかり魅せられてしまった。


後半は、「アイヌと漆」について新たに知ったことをひとつ。
アイヌが漆器を使っていたことは以前書いた(こちら)。
本州で和人が生産するお椀などを北前船で松前まで運び、アイヌが買い、大事な宝として儀式などで使われていた。
このことを私は知らなかったので、本で読んだときとても驚き、ブログに書いたのだった。

昨日の展覧会では、アイヌが使用した漆器(金蒔絵など割と華やかなのが好き)も展示されていた。そこで、あれっ?と不思議に思ったのが、漆塗りの「イクスパイ」(=酒棒箸)だ。

民藝館ホームページの画像を使わせていただきました。

アイヌは交易で漆器を手に入れていた。だから、用途は和人のそれとはまったく違うのに、和の文化で使われるお椀や天目台や桶がそのままアイヌの暮らしにある。そこが面白い点だ。
だが、「イクスパイ」は和のものではない。形状も施された彫刻もいかにもアイヌという感じで、こんな形の漆器はたぶん輪島でもどこでも生産されていなかったはずだ。
アイヌは漆塗りをしないと読んだのに、これはアイヌ製なのか??

学芸員さんに尋ねたところ、いろいろな資料を当たってくださり、ある書物にそれに言及した一文を見つけてくださった(書名を聞けばよかった!)。
アイヌは、ただ和製の漆器を買い取るだけでなく、いわばオーダーメイドで自分たちの欲しい漆器を依頼していたのだった。
しかも、木を削り、祈りの文様を彫って、「これに漆を塗ってくれ」とオリジナルオーダーをしていたわけだ。

アイヌというと、和人と争って奥地へ奥地へ追われていった歴史を想起してしまうが、このように「和人=請負業者、アイヌ=注文主」という関係も築かれていたなら、もっと違う意味での親密さというか、関係の深さもあったかもしれない。
私も何度か、木工家の彫ったレリーフに漆を塗らせてもらったのだが、塗り方の希望を聞いたり、そのためには彫刻部分はこのように仕上げておいてほしいと要望を伝えたり、それなりに依頼者とコミュニケーションをとって、それを通じて打ち解けていくということがあった。
アイヌと和人がそういった“打ち合わせ”をしていたと想像すると、なんだか微笑ましいような、素敵なことを知った気がした。

【2013.05.03 Friday 12:34】 author : chiewatabiki
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