漆工 綿引千絵の奮闘記
 
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国難の時代に、漆器。
震災の後、皆そうだったみたいだけれど、私も「こんなふうに椀塗ってていいのか?」と思った。被災地を思うと、自然とそんな感情は湧くものですね。
でも実は、次に私が思ったのはもっと利己的な気持ちで、「これから大変な時代が来る。漆やってて生きていけるのか?」ということだった

どう考えてもこれから復興にたくさんのお金がかかる中、一般市民の生活は厳しい時代が続くんだろう。そんな“国難” の時代に、漆器を使い、楽しむ人がどれ程いてくれるだろうか。もう今となっては、漆は求められていないんじゃないか。
地震当日から1週間くらいはそんなふうに思って、仕事が手に付かないくらい呆然と過ごした。
やはりその時は、漆器より、金より、歌より、一個のおにぎりが大切な状況を毎日目の当たりにしてたんだもの。そりゃ、「自分、何やってんだ」と思ってしまうのも仕方ないかな。

脱力してしまった私の意識を変えてくれたのは、ほかならぬ被災者のお客様だった。

その方は茨城で被災され、ご自宅には津波が来なかったものの、ライフラインを断ち切られた。とくに、水道はその後数週間復旧せず、毎日水道車の行列に並び、川から水を汲み、汚物を庭に埋める生活を余儀なくされたそうだ。
心配になって連絡を取ったとき、「綿引さん、この生活では、たっぷり椀にお汁をたっぷり入れて飲めることって、本当に幸せなことなんだよ」と言ってくださった。

たっぷり椀 毎朝汁椀として使っているマイ椀 

もちろん、お客様は液体を存分に飲めることがいかに貴重か、その状況を話してくださったんだとは思う。
でも、なんだか私には、過酷な状況下では漆椀の形や色や手触りがなぐさめになったよ、という意味にも聞こえてしまった。


その後、展示会でこういうこともあった。
「震災に遭って、つまらないものは持たないようにしようと思ってたくさん捨てたんです。その代わり、本当に良いと思うものを使っていこうって。」掌に私の飯椀を包みながら、そうおっしゃるお客様。
物なんて一瞬で無くなってしまうのだから、形あるうちは本当に好きなものを楽しんで使うのだと、飯椀を持ち帰ってくださった。

 飯椀 (小)


このお二人は、ご自身にとっての「豊かさ」を漆に感じておられる。そうか、漆は豊かなものなんだ(←今更ながら!)。私の漆器も、豊かさを差し出せる可能性があるんだ。

国難の時代だからこそ、一昔前のような、外での派手な“娯楽”や使い捨てる消費物を、いつも誰でも享受できる訳じゃない。そんな“豊かさ”を望まない人も多くなっている。
だったら、いつもの生活の中で感じられる豊かさが、きっとこれから、更に更に大事になるんだろうな。

二つのお言葉のおかげで「私も漆続けてていいんだ」と思え、無事元気回復となった。
残りの人生、漆で生きていけるのかは私次第なんだけれど!

【2011.07.29 Friday 13:32】 author : chiewatabiki
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この記事に関するコメント
素敵なお話。私もおこぼれで元気頂きました。

ぬりもの、これからも作っていってください!
私もまきえ作り続けていきます!!
| 伯兆 | 2011/07/29 3:35 PM |
伯兆さん、

ありがとうございます!
伯兆さんの生み出しているマトリョーシカや香合やウッドビーズの蒔絵たちは、本当にみんなを豊かに、幸せにしてくれてると思います。
私も伯兆さんから何が生まれてくるか、いつも楽しみですよー。

お互い、これからも、作っていきましょう!
| chie | 2011/07/29 5:40 PM |
そんなふうに考えるられると言うことは自分の仕事にちゃんと向き合ってる証拠です。とても大切な事だと思います。
漆にこだわり迷いながらプライドをもって時を重ねてゆく事は決して無意味な事ではないと自分は信じています。
| 蒔絵師masa | 2011/08/11 11:05 PM |
蒔絵師masaさま

コメントありがとうございます。

私は技術も人間も未熟なので、いつも葛藤ばかりです。
でも、漆という素材、漆という仕事は、こちらが迷ったりしても、答えをもらえないことがないというか、必ず答えてくれるというか、こちらが問いかける以上に大きいものを与えてくれますよね。

そういうでっかいものが相手だからか、漆自体を疑う必要がなく、この仕事を信頼できることは、幸せだなぁと思います。

masaさんのお言葉を読んで、亀の歩みでもこうやって迷いながら、自分なりに歩けばいいのかな、と思いました。
| chie | 2011/08/13 12:28 AM |
器だったらなんでもある。百円ショップにだってある。
でも私にはそれを手にすることに非常に抵抗を感じてしまう。

それよりも、作った人たちの想いがつまった品を生活で使いたいといつも思って選択している。千絵の漆器はまさにその典型。

使うたびに豊かな気持ちになるし、誰かにプレゼントする時も、次に使う人が同じような素敵な気持ちになれることを願ってさしあげているよ。

しんどいときもあるだろうけど、続けてくれていて嬉しい。ありがとう!
| ユキ | 2011/08/13 10:46 AM |
ユキさま

毎度ながらまた作業が切羽詰まって、お返事遅れてごめんなさい。

私の方こそ嬉しいです!
ほんと、「食べられればいい」という基準ならば街に食器は溢れていて、わざわざ漆器を選んでもらうのは難しい時代だよね。
それなのに、ユキやみなさまが私の器を使うのを自然体で楽しんでくれて、その価値観や感性にいつも教えられる思いです。

それを思うと、まだ漆と出会っていないだけで、出会ったら漆を心地よく思う人は、きっと日本にたくさんおられるのだろう、と勇気がわきます。
そういう方々へ届くようなものを生み出せればいいなぁ。

その目標があるから、これからも、続けるよ!
| chie | 2011/08/16 2:38 PM |
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