漆工 綿引千絵の奮闘記
 
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水銀朱の勉強会@舎林のご報告
春の活動のご報告が遅れ気味で、以下にお話ししますのは5月21日の出来事になります。

赤い漆器に使われている古来の赤色顔料「水銀朱」は安全なのか??という問題。
あらましは過去の投稿「水銀朱の話―安全か?危険か?使うか?やめるか?―」でざっと(でも長々と)述べさせていただきました。

要は、水銀朱といったら、水俣病を引き起こした水銀が想起されて、とても恐ろしいイメージを持たれる訳ですが、本当のところはどうなんだろう?
漆器として使う上で、また、漆器を生産する過程で、害はあるのか?
それを作り手である我々がきちんと把握して、自らの態度(水銀朱を使うのか、使わないのか)を決め、使い手のみなさまに正確なことをお伝えしていく義務があるでしょう、との問題意識から、勉強会を開くことになったのです。

「開くことになった」と口が滑りましたが、私は「勉強会を開いて」とお願いしただけで、実際に開いてくださったのは、会場を提供してくださり人を集めてくださった「舎林」さん、文化史的側面で講義してくださった藤崎誠先生、そして、塗料としての化学的側面、水銀廃棄に関する法制面で綿密な調査をし、発表してくださった丸山智洋さんです。
このお三方のお陰で、今回私たち参加者は、少なからず新しくて正しい知識を得られたと思います。




時代の風潮もあり、食品・生活用品の安全性については、一般消費者であるみなさまも関心が高いことと思います。勉強会でわかったこと・確認できたことを、環境問題の側面に限って、みなさま(作り手さま、売り手さまも含む?)にもご紹介申し上げます。
誤解を招く恐れもありますが、予備知識のない方にもご理解いただけるよう、要点だけをまとめてみます。


ー訶匹蠎心錣箸靴道藩僂垢襪ぎり、水銀朱は人体に取り込まれない。健康被害も起こらない。


⊃絛笋稜儡(おもに下水)については、現行法で厳しい規制が布かれている。
 ↓
 けれど、現状において、水銀朱を使う漆器生産者が、法制を守って廃棄しているケースは少ない。
 
 〈法律〉排水に含まれる水銀は、1Lあたり0.005mg以下でなけれ     ばならない。
  →漆器生産の現場:
   ある想定下での計算では…
   椀1客の研ぎ工程で出る水銀量を、規制値内で排水するには、
   水200トンが必要。
   ⇒漆器生産者は下水に流さない取組みが必要なのでは…?

 ※ただ、水銀を除去せずに下水に廃棄してしまった場合でも、
  下水処理場で汚泥として回収され、水環境中には排出されな   い。


水銀朱が塗られた漆器を焼却ごみに廃棄すると、燃焼によって強毒の水銀蒸気が発生する。
 ↓
 しかし、ゴミ処理場には活性炭で水銀を吸着する装置があるため、実際には水銀蒸気が大気に排出されることはない(ただし、自治体によって処理能力に差あり)。
 ↓ 
 したがって、漆器を捨てたいときには、焼却ごみに出すことが可能。各自治体の規則に照らしても、普通ゴミに出してよいことになっている。
   
 ※この点に関して、訂正があります。私は以前の投稿で「水銀蒸気が大気に排出される」とお伝えしてしまいました。正しくは上記のとおりですので、新情報でご記憶くださいますようお願いいたします。

以上、ほとんど丸山さんの調査の受け売りですが、みなさまにお伝えしたかった環境問題の要点でした。
今回知った情報と皆での話し合いを経て、自分なりに考えたことも簡単にお話しいたします。


わたくし綿引千絵の現在地

◆水銀朱研ぎ水の排水について
 私は、排水に水銀を極力含ませないように努めております。
 水銀朱は重金属で大変重いため、研ぎ水を一定時間放置すると水銀が沈殿します。その上澄みだけを掬って下水に流しています。
 ただ、それが法に定められた0.005mg/L以下なのか、まだ不明です。自治体に依頼して調べることができるそうなので、宿題として今後調べることをみなさまにここでお約束いたします。

◆水銀朱を使うかどうか
 目下の考えでは、引き続き水銀朱のぬりものを大切に作ってゆきたいと思っております。
 上の↓に記したとおり、排水の工夫さえ万全にすれば、環境に害を与えず漆器生産、そして漆器の使用をしてゆくことが可能だと受け止めました。
 
 また、上では触れませんでしたが、文化的側面からも、縄文人と弥生人のそれぞれ異なる「朱の思想」が長い時間を経て融合し、奈良・平安時代以降の「朱塗り」への思い入れを形づくった歴史があります。それは今の私たちにつながる思想であり美意識だと、私は思っています。
 その視点からも、水銀朱の環境問題が深刻でないと思われる現段階では、水銀朱は絶やしてはいけない、水銀朱の文化を引き継いでいこう、と考えております。


こんなところです。
水銀朱の文化的意義の部分が、実は私の一番の関心事なのですが、まだ勉強不足で整理できていません。それはまた、あらためてお話しする準備ができたときに、みなさまに聞いていただけたらと思います。

これからもコメント欄等で、みなさまのお気持ち、お考えをお知らせください。
漆塗りも私たち日本人の文化、自然環境も私たちが暮らす大事な日本。だから、水銀朱を使うにしても断念するにしても、日本の“みんな”が何を望むかを知りながら、考えてゆきたいと思っております。


【2011.06.07 Tuesday 14:43】 author : chiewatabiki
| 漆コラム | comments(6) | trackbacks(0) | - | - |
この記事に関するコメント
たまたま、漆に関してさまざま閲覧していてこちらを拝見しました。

山中出身のものです。

ご存知かもしれませんが、山中の漆器屋の人で、「カドミウム朱」には長々とヒステリックな反応を示すのに、水銀朱にはそこまでではない、というブログを書いている人がいます。
(ここを読む限り、「pew」=丸山氏のコメントも最初のほうは敵意が感じられ、不愉快だった)

個人的な見解ですが、作り手、ユーザーの健康被害のような起こる確率の低いものでヒステリックな観点で捉えるよりも、漆器産地の水質汚染等を問題としたほうが前に進みやすいのではないかと思います。その場合は一部の考えすぎの「消費者」が作家、業者をピンポイントで攻撃対象にするのは不毛で、むしろ国、石川県や輪島市、加賀市等が何らかの対策を取るべきであると音頭をとる(といっても相手にされないだろうから、保守系の議員らに根回していくほうが有益であろうと思うのですが。
| AK | 2011/10/16 3:32 PM |
AK様

コメントどうもありがとうございます。

ご指摘の点、
>むしろ国、石川県や輪島市、加賀市等が
>何らかの対策を取るべきであると音頭をとる
私も同感です。

正直申しますと、調べれば調べるほど、漆関係者が水銀朱によって引き起こしうる環境汚染というのは、なんと規模の小さいことか、と思わされております。これで水銀朱を危険視するのであれば、地球上に住める場所などないのではと思うくらい、実際の汚染の可能性と規模は小さいものだと、本音では感じております。

ですので、作り手が個人レベルで水銀朱への対策、消費者への説明で神経をすり減らすべきことなのか、という疑問も持ちます。
AK様のおっしゃるように、公の機関や漆の組合・組織が積極的に行動してもらえたらと願っております。そしてまた、必要であれば、それが実現するように、自分も働きかけを起こすべきなのかもしれない、とも思います。


ただ、その場合の自治体や漆器組合による水銀朱対策は、「水銀廃棄に関する法令遵守」のことと「実質的な環境汚染」はしっかり分けて整理するのが大事だと考えます。
2つの事柄をそれぞれ正しい知識で周知徹底しないと、この問題は対策も進まず、意見対立ばかりが目立つ結果になるのでは、と危惧します。

よく漆関係者の間で「産地の川は水銀の数値が異常なほど高くて公表できない」→「こわい〜」→「銀朱は使うべきじゃない」と話題にされることがあると思いますが、「法規制の数値を超える」ことは、そのまま「水質汚染」「有害性」を意味するわけではありません。
事実、現在の日本では、もちろん漆器産地も含めて、水銀による水環境の汚染が発生している地域は一つもないと聞いております。それに対して法規制は、水銀全般が対象のため、安全側に立って、水銀朱にしては大変厳しい数値になっているそうですね。

語弊を恐れずに申せば、「水銀朱による水質汚染はほとんどない」と感じている私ですが、それでも、漆器販売者が消費者に対して負う責任というものは、また別に存在しています。
ですので、それほど環境に悪でなくとも、消費者との関係で対策が必要だと思います。

産地では、法規制と環境汚染の正確な情報を改めて皆で確認した上で、
・消費者に対して隠すようなことをしていないか
・水銀朱を使う業者は消費者にどう説明責任を果たすか
・環境を汚染しないためにどんな対策を取るか、
これらを議論して進めていただくのが必要な気がいたします。


AK様のお考えはいかがでしょうか?
自治体にしてもらうべきことは上記では不十分でしょうか?もっと規制的なことが必要だとお考えになりますか?
もしよかったらまたお聞かせください。
私の視点はとても狭いので、みなさまのお声がとても有難いですので、またどうぞよろしくお願いいたします。
| chie | 2011/10/17 3:24 PM |
chieさん、こんばんは。
私はうっかりchieさんが輪島の人だと思っていたので
「行政」という単語を出したのですが、埼玉の方だったのですね。

>公の機関や漆の組合・組織

おそらくご指摘のように「規模が小さい」汚染に過ぎないということで特に動かないのだと思います。
輪島の事情は存じませんが、山中には漆器屋だけが住んでいる地区があります。しかしそれよりもかつては住民や旅館が出す生活排水のほうが問題となりました。水銀に関しては農薬のほうがはるかに大きい物だったでしょうし、カドミについては石川県小松市には二つ廃鉱がありますのでそちらの影響が大きい物で、顔料に関しては無視されていたと思います。
そして現在では高級品にしか使わない顔料よりも「有機溶剤曝露」のほうが大きな問題であるのではないかと思います。


>・消費者に対して隠すようなことをしていないか
・水銀朱を使う業者は消費者にどう説明責任を果たすか
・環境を汚染しないためにどんな対策を取るか

煽動気質のない堅実な科学者、議員とコネクションを持ち、何らかのガイドラインを示してもらうことが良いのだと思います。
しかしこういった事柄に「不安を持つ」人はトンデモといいますか、攻撃的、煽動的気質を持つ人も多いでしょう。化学への無知を決して認めず、会話が成り立たない場合も多い。その場合は厄介だと思います。やり過ごすしかない、最悪、場合によっては法に訴えるしかないかもしれません。
| AK | 2011/10/18 7:47 PM |
追伸

煽動的活動家への反感から、事態が悪化している例といえば
和歌山、長崎などでの鯨肉食だと思います。鯨肉、イルカ肉にはメチル水銀が多く蓄積しているのですが、反捕鯨団体への敵意と反感から健康を害する恐れがあると言われようが、反捕鯨派が言うことなんぞ全部無視、という姿勢の人が多いのが事実。
| AK | 2011/10/18 7:56 PM |
AK様

お寄せくださったコメントを拝読してつくづく思いますのは、何らかの思惑のために、事実を表面的に取ってつけたり、事実を曲げたり、事実に目をつむったりすると、もうどうしようもなくこじれていってしまうのだなぁ、ということです。

自分もそういうことのないようにと心掛けてはいますが、一つの主張を持ちつつ、同時にニュートラルに物事を見るというのは、どちらの立場に立つかに関わらず本当に難しいですね。

>煽動気質のない堅実な科学者、議員とコネクションを持ち、
>何らかのガイドラインを示してもらうことが
>良いのだと思います。
そうですね。
漆関係者だけで何か決めるのでなく、見識のある外の方々にガイドラインを示してもらうのは、建設的だと思いました。

私も'08年にいくつかの学会に質問を送り、学者さんに回答をいただいたのですが、“扇動気質のない”方で見識があり協力してくださる方を見極めるのが、またひと仕事かもしれませんね‥‥。でも何らかの"解決"があるとすれば、そこから始まるようにも思いました。
| chie | 2011/10/20 2:57 PM |
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