漆工 綿引千絵の奮闘記
 
私の溜塗  「溜塗とは」続き
前回「溜塗とは」の続きを予告しておきながら、あっという間に2週間も経ってしまいました。


私、綿引千絵の商品にも実は溜塗のものがあります。定番では角皿シリーズ(角皿五寸、六寸、七寸、八寸、長手角皿)を作っているのですが、それにまつわる話をしたいと思います。

前回、溜塗の種類として「朱溜」と「木地溜」を紹介しました。
溜塗の熱烈なファンというのは結構いらして、そういう方に申し訳ないのですが、私は朱溜というのがどうも苦手です。
木地溜はたいてい好きなのですが。

朱溜の中には色の濃淡がすごく強く出ているものがあって、これが、ひとつ間違えると田舎くさいような、野暮ったい印象を作るなぁと、私は思ってしまうのです。
これは完全に好みの問題だと思いますが、みなさまは朱溜にどんな印象をお持ちになりますか?

『塗りの系譜』(東京国立近代美術館)より

溜塗の「溜」というのは、そもそも、重箱の隅っこなど凹んだ部分に漆が溜まるところから来ている言葉のようです。溜まり部分の漆は濃く見えます。
逆に、上縁などの凸部分は漆が薄くしか付かないので、下層の朱漆が透けて明るく見えます。前回も載せた画像ですが、上記で見るとよくわかるでしょうか。
漆の溜まった部分と薄い部分があるのが溜塗たる所以なのに、私はこの特徴がちょっと苦手、そうなると元も子もないですね。溜塗に「自分は悪くない!」と言われそうです。

もっとも、写真内の増村益城作「乾漆朱溜喰籠」は形も美しいし、上質な漆を使っているはずだし、制作後何十年を経ることで色目もすっかり落ち着いた状態なので、上品で、嫌な感じはまったくありません。

でも世の中に出回っている溜塗は、レベルの高いものばかりではありません。塗りの技術、そして漆の質が伴わないと、色の濃淡が欠点としての“色ムラ”に見えてしまいます。
世の溜塗を云々していないで、自分が高いレベルの溜塗をすればいいだけの話ではあります(難しいですが)。ただ今の時代、プラスティックやウレタン“漆器”の一部に、なんとも雑な雰囲気を醸し出している溜塗もあるので、あの印象に引きずられてしまうのかもしれません。


どうしても朱溜に良い印象を持てない私は、それでも溜塗の奥行きある質感は捨てがたくて、自分なりの溜塗を作りました。こちらです。

角皿 数年間使ったもの

角皿の形状だと、通常は色の濃淡がもっと出るはずです。私の朱溜では、凸のはげしい部分(=ふち)のみ赤く見え、ほかの部分は黒一色に見えます。
溜塗のようであり、溜塗でないようでもあり‥‥。
なぜ普通の朱溜と違うのかというと、企業秘密をばらしますと(大した秘密でもないですが)、仕上げの透き漆に黒漆を混ぜて、透明度を少し落としているからです。だから、よっぽど出っ張ったところしか下層の色が見えないのです。
また、黒いところも、いわゆる漆黒でなく、ほんのり奥まで見通せる黒いサングラス状態なので、やわらかい黒と言えるかもしれません。

自分では、色ムラがないためにスマートさが出せ、でもふちの赤によって多少の愛嬌もあるかな、と思っております。
なんといっても、色調がうるさくないので、料理映えするのではと思います。
チーズ&クラッカーといった乾き物、お刺身、炒め物、パスタなど、なんでも気兼ねなく盛り付けています。

結局最後は宣伝になってしまいました。
色の濃淡という朱溜の醍醐味も放棄し、一見、つまらないかもしれないほど地味な「角皿」ですが、日々の食卓で美しく見え、使い勝手のよいことを求めて行き着いた形と塗りです。一度ご覧いただけましたらうれしいです。

3月13日    品川てづくり市出品予定
  ↑お詫び: この投稿のあと状況が変わり、出品できない
        見込みとなりました。申し訳ありません。
4月1~14日    浦和「楽風」出品予定
【2011.02.21 Monday 09:54】 author : chiewatabiki
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オリーブと朱
JUGEMテーマ:アート・デザイン

先日、姉が大粒のオリーブを買ってきてくれた。
ちょっとつまみにと小皿に入れる。


あらためて思う。
この系統の色と漆の朱はなんて合うんだ!
合うというか、朱によって食べ物が引き立つ。
引き立ちすぎて少しまぶしいが。

オリーブ色やうぐいす色。
そういえば、個展のとき私もこんな色の別珍の生地を買って、
「うるしリング」をずらっと並べた。
赤、黒、シルバーにも合うので、使える色だ。

オリーブもおいしかったが、
この二色の妙がよい肴となった。



【2011.02.03 Thursday 00:21】 author : chiewatabiki
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Shop*Salut限定!赤のソープディッシュ
 みなさま、こんにちは。今年はなんだか余裕が無くて(いつもですが)、ブログ更新をさぼっております。覗きに来て下さったみなさま、申し訳ありません。


 書きたいことや載せたい写真は、今日もまた先延ばしにしてしまおう。エジプトには「明日できることは明日しなさい」という意味のことわざがあるそうだ。そうやって自分に言い訳しつつ、ひとつ品物をご紹介させていただく。

 以前にもお伝えしたが、私はショップ*サリュというインターネットのお店にソープディッシュを卸している。各種ソープディッシュを取り揃えたお店だ。
 ショップ*サリュについて書いたブログ記事はこちら

 現在、サリュさんでは私の定番にはないソープディッシュの朱バージョンを扱っていただいている。サリュさん限定品!


 
 詳しくは、是非サイトでチェックなさってください。

 昨年、私が「漆のソープディッシュを作っています」と売り込ませていただいたところ、品物や考え方にも共感していただいてお付き合いが始まった。
 その際、オーナーさんが「赤いソープディッシュも見たい」とご提案くださり、今年サリュ限定バージョンが生まれた。

 自分なりの発想では、水あかやカルキ痕が目立たないように石鹸置きはシルバーにしよう、ということで錫粉を蒔いたディッシュを作った。でも、オーナーさんの「漆は赤いものが可愛い!」とのご意見にも同感。
 もしかしたら、お客様によっては、ソープディッシュがその方の‘はじめての漆器'であるかもしれない。そういう方にはとくに、漆らしい朱塗りのものをご提供できたらよいかもなぁ、と私も思い、喜んで作らせていただいた。
 
 考えたら私自身、お椀も箸も皿も盆もぬりものを使っているわ、という漆器上級者よりは、良いものは使いたいけれど漆はまだ知らない、という方に、どちらかといえば、自分の器を届けたいと思っている。だから、赤いソープディッシュを見て、漆っぽさとか日本らしさを感じて興味を持っていただけるなら、ありがたいなぁと思う。
 ここにも漆への入り口がひとつ用意できたかな?そうであればいいな、と願っている。


定番ソープディッシュ 錫(シルバー色) 3,800円
  ・在庫あり:ぬりもの屋Japanはるり銀花
  ・今秋納入予定:うつわ&カフェ かくしち        
 
【2010.09.12 Sunday 00:50】 author : chiewatabiki
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赤子椀
 「器いろいろ」は、漆器に限らず陶器でもガラスでも、私が出会った器について紹介しようと思って設けたカテゴリーだが、あとから気が付いた。そういえば、貧乏ゆえ器を買う機会がほとんどないな、と。
 ここは開き直って、自作の器を宣伝させていただくことにしよう。

 
 赤子椀について。私は赤ちゃんのはじめての器として「赤子椀」を作っている。離乳食から使ってもらってもいいし、赤ちゃんが自分でお椀を持てるようになったら、ご飯やおかずを匙で掬って食べてもらうよう意図した器だ。



 写真でわかるとおり、一般に子供椀は普通のお椀を小さくしたタイプが多い中で、この椀はちょっと変わっている。赤ちゃんの小さな手でも持ちやすいよう、すべって落とさぬよう、2段のふくらみを付け、真ん中はくびれた形状にした。外のふくらみに対応して、内側は2段の凹みがある。この2段構造によって、匙で食べるとき椀の壁に押しつけながら掬うことができるし、掬い上げるとき椀の縁から外にこぼれることも防いでくれる。
 こんな形は作る側からすると面倒くさいことこの上ないので、見た目の面白さだけのためなら絶対に作らない。使いやすさを想像してたどり着いたらこうなった、というわけだ。
 
 私には子供がいないので、どんな形が一番赤ちゃんにとって使いやすいのか本当はよくわからない。でも幸い(?)、私は子供並みに手先が不器用なので、不器用な私でもきちんと食べられるにはどんな椀であってほしいか、と自分本位に考えてみたところ、意外とイメージしやすかった。
 赤子椀ユーザーにご意見を聞いてこれからも改良していかなければいけないが、今までいただいた感想では「1歳児でもしっかり持っている」「こぼさなくなった」「幼稚園児になった今も使っている」そうで、ねらいはまずまず功を奏しているようだ。


 赤子椀にまつわる話で、先日ハッとしたことがあった。
 赤子椀を薦める際、、匙で掬いやすい形だとアピールしている。そのとき自分の頭にあるのはおかずやご飯を匙で食べる場面なのだが、ことさらご飯用とはお伝えもしないで売っていた。匙で掬いやすいのだから、きっと固形物を食べるときに使ってくれるだろう、と思い込んでいた。
 何となくの想像で申し訳ないのだが、離乳して間もない赤ちゃんはご飯茶碗と汁椀を二つ並べた食事スタイルではないような記憶があるので、赤子椀は飯椀とか汁椀とかの分け方はしていない。ただ、どちらかといえばおかずやご飯が食べやすい椀だと思っていた。
 ところが、お客様のお便りや追加注文の折に「お味噌汁を入れています」という声を結構いただくようになった。あれっ?!もしかしてみなさん汁椀と捉えているかも?!私が頭の中だけで思っていて、言葉に出してお伝えしなかったせいかな?!
 急に申し訳なくなった。赤子椀は口縁が内側に入り込んで、唇を付けて汁を吸うとちょっと飲みづらい形だろうと思っていたのだ。このことも頭でぼんやり思っているだけだった。きちんと伝えればよかったかな…。
 用途を限定して〜用と言わない方が自由に使っていただけるのでは、と勝手に思っていたのだが、何も言わなければ普通は「椀=汁用」なのかもしれない。私は漆職人で家に椀が溢れていて、勉強の意味もあってあらゆる用途で漆器を使っているので、感覚がマヒしていたのかもしれない。いけないいけない!こんな感覚では!使い手側に立ったものづくりなんてほど遠いな、と反省したのだった。
 
 実はこれには後日譚があって、上の画像を送ってくれた友人に「味噌汁飲みにくい形でしょう?伝えてなくてごめんね」とメールした(写真は味噌汁を飲んでいる図だそうだ)。そしたら「飲みにくくないみたいだよ。子供はお椀を勢いよく傾けがちだけれど、そうしてもこぼれないから、上手に飲んでいる」と返事があった。
 またもや意外だった。汁椀には適さない、ということすら私の思い込みだったかもしれない。この友人は、汁椀にも飯椀にも使うし、煮物なども盛りつけてくれているそうだ。私が思うより、ユーザーの方が漆器づかいを素敵に楽しんでいて、また教えられる思いがした。
【2008.11.14 Friday 10:14】 author : chiewatabiki
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ARITA PORCELAIN LAB の醤油差し
 醤油差しを変えたいなぁと思っていた。ここ何年もうちで使っていた醤油差しは、注ぎ口に醤油が固まってしまうので好きでなかった。いつだか、某デザイン賞を取ったものだからと父が買ってきたのだ。液だれしないとか、使いやすいと言われているけれど、注ぐときかなり傾けないといけなかったり、ちょっとだけを出すことができなかったり、私には良さが分からないままだった。でも、私も貧乏なのですぐに買い換えようというつもりでもなかった。

 去年、テーブルウェアフェスティバルの券をいただいた。あれに行くと一周するにもすごく疲れるから躊躇したが、こだわりの漆器を作る輪島の蔦屋さんが出店していてそれも見たかったし、じゃあ行ってみるかと出掛けた。そのとき驚くほど汁切れのいい醤油差しが見つかった。「驚くほど」と言うのは、一見注ぎ口はただの筒状で、特別工夫してある風でもなかったので、意外だったのだ。
 醤油差しといえば、液だれしないことが絶対条件だ。注ぎ口がすっとすぼまったり、きゅっと反っていたりして、いかにも垂れませんよ、という感じがあると信用できたりする。でも、その醤油差しの口はあまりにそっけない形だ。
 店員さんの説明によると、注ぎ口の形状によって液だれを防いでいるのではなく、特殊な釉薬を塗ってあるので垂れないのだそうだ。その釉薬が醤油をはじくような仕組みなのか?よくわからない。が、実際に水を入れて試させてくれたのだが、気持ちのよい切れ味だった。デザインもシンプルで嫌味がなかった。 
 後日調べると、ARITA PORCELAIN LAB というショップで、有田で長く続く有田製窯(弥左衛門窯)が展開しているブランドだと分かった。いろいろとがんばっている会社みたいだ。有田焼の伝統技術を継承しつつ、現代のライフスタイルに合う食器を作っている。 
 
左:醤油差し、右:ソース差し

 数ヶ月後に東京の取扱店に出向いて、とうとう買った。でも、「醤油差し」はとっても小さくて45mlしか入らない。どう見ても1〜2人用だ。ファミリーならば、同デザインでもう一つ大きいサイズの「ソース差し」の方がよいとのことだ。そこでは「ソース差し」を扱っていなかったのでやめる手もあったが、私は「醤油差し」を買った(たしか2100円)。それを姉に買い取ってもらって、まずは姉の家で使い心地を試してもらう魂胆だ。しばらく使った姉の感想は、なかなかよかった。別売りの受け皿が買った店に置いてなくて残念に思っていたが、無い方が余計すっきりしていいと言うので安心した。
 
 
 今月、去年の出会いから1年経ってようやく我が家にも迎えることができた(写真はソース差し)。



「ソース差し」(たしか2500円)は105ml入るので、たぶん一般家庭にちょうどよいサイズ。ただ、「ソース差し」は「醤油差し」の形をそのまま大きくしたものなので、注ぎ口も「醤油差し」に比べて少し太い。細い口の方が注ぐ量の加減がしやすい気はする。少人数家族なら、小さくてもやっぱり「醤油差し」がおすすめかな、と思う。(注 一月使ってみて、「ソース差し」では機能に差し障りがあるというのが正直な感想です。再度、醤油には「醤油差し」をおすすめします。)
 もう一つ気になる点を言わせてもらうならば、蓋と本体が触れている部分に醤油が付いて結晶化してしまうことだ。蓋の外までにじみ出てくるほどではないし、蓋と身がくっついて固まってしまうほどでもないのだが。ちょっと残念な点だ。これは、落とし蓋の構造になっていないせいだと思う。身の上に蓋をただ載せるようになっている。



この程度なら改良される可能性もあるのではないだろうか。

 そのほかは満足している。相変わらずすっきりの汁切れは気持ちよく、醤油が口に溜まることもない。和食器にも洋食器にも馴染む。これからは快適な食卓になりそうだ。


 ちなみに、漆の醤油差しはあまり多くないが、本間幸夫さんのものが定評があると聞いたことがある。八代淳子さんの醤油差しもかっこよくて使いやすそうだ。是非個展などでご覧ください。
【2008.03.16 Sunday 10:11】 author : chiewatabiki
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西田健二さんの片口
 少し前になってしまったが、5月27日に日帰りでクラフトフェアまつもとに行ってきた。初めてでいろいろと刺激を受けたので、何に感動したか整理できたら記事にしようと思っていたのだが、書く時間を惜しんでいる間に「まぁいいか」という気になってしまった。ひと言でまとめてしまうと、松本の街がとても気に入ったことと、漆の出展者も皆さんがんばっていて励みになったことがよかった。
 
 そのクラフトフェアで、一つの片口を手に入れた。久しぶりに「物に出会った」感覚をおぼえた。
 薄緑と薄水色を混ぜて薄めたような色合いの青白磁で、大きさは抹茶茶碗よりひとまわり小振り、値段は3000円、作者は九谷の西田健二さんという若手の陶工さんだ。この片口を見つけて持ち帰ってからずっと眺めているが、まるで飽きない。何度見ても好きだなーと思う。普通、気に入って買った物でも、慣れるほどに「ここがもうちょっとこうだったら完璧なんだけど」というような小さな欠点が気になってくることが多いのに、この片口には「このように生まれてきてくれてありがとう」と言いたくなるほど不満が出てこない。自分に合った物というのは、姿形から、出会い方、買った状況まで全てが必然に思えてくる。
 いま思うと、店先に何の主張もせず並んでいたそのさりげなさすら、かっこよい。クラフトフェアまつもとは毎年200人以上が出店するから、一巡するだけでもくたびれる。まずざっと廻って、それから2周3周してじっくり見た。西田健二さんの店に惹きつけられたのは3周目の時。とーっても地味と言っては失礼だが、本当に控えめな店構えだ。会場には若手の作品が多く、はじめは割と若者的な、奔放な絵付けの陶器やナチュラルライフ系の白い器の店が目について、西田さんの店は素通りしていたらしい。それもそのはず、他と違って食器はほとんどなく、書道の水滴や一輪挿し、小ばこなど小物がこぢんまりと並べてあった。そのうえ淡い色調だから、なおさらひっそりしているのだ。でもよく見てみると、どれも作りがしっかりしているというか、(目利きぶるようだが)自然と信頼感が湧くような確かさがある。きっと職人修業をした人で技術があるんだろうな、と思った。それでいて、ただ上手い印象でなく素敵に見えた。惹かれた!そして、店番をしているご本人がまた、朴訥そうでとても控えめな方。セールストークは一切ない。
 「この人のなら何か欲しいな。あとでまた…」と思った時、片口が目に入った。「あれっ、きれいな形!」手に取ってみた。掌に収まる感じがよい。胴のふくらみが丸すぎず直線でもなく、とってもいいラインなのが一番気に入った。小さな注ぎ口を作ったことで口縁の円が歪んでいるが、その崩れ方も行き過ぎない感じだ。縁と注ぎ口が薄作りなので上品な雰囲気だが、持ってみるとほどよい重量感があるので安心する。小振りなボディに低高台というバランスも丁度!な感じ。色と形も合っていて、全体はシンプルで可愛らしい。思わず「きれいな片口ですね」と話しかけてしまったが、西田さんは「はー」と答えたくらいだった。 ※今日の内容こそ、写真を掲載しないと意味がないような記事ですが、その機能が壊れていてできないのが申し訳ないです。描写だけですみません。
 ここまで気に入ったのに、貧乏な私はすぐには買わなかった。衝動買いはいけないこと!よく考えようとその場を離れた。でも上の空で何軒か見るうちに、「あれを買わねば!」と心が決まってしまった。同じく器を作る者として、これだけ美しさを感じたのに買って帰らなかったらその形もいつか忘れてしまうだろう。身近に置いて使ってよく味わえば感性も育つし、こんなちゃんとした器が3000円って考えてみたら安い。それで勉強にもなるんだから。これにお酒を入れたら、お酒の色がよく見えてきっときれいだろう。(余談だが、私はお酒を飲むが、まだ自分で漆の酒器を作ろうと思えない。お酒の色やとろみ加減を見えてこそ楽しいので、漆器だと美味しさも半減しそうで嫌なのだ。内に銀か錫を蒔いたらよいかもしれないが。できれば白っぽいやきもので飲みたい。)
 そして買いに戻った。その時、片口に水を入れさせてもらって注ぐ感じを確かめた。また感動!やっぱり、注ぐ時の水の動きがとてもきれい。そして、水切れの美しさ、これが本当に気持ちよかった。単に注いだあと垂れない、ということではなく、注ぎ終わりが美しいということを初めて知った。人間の美徳として「去り際が美しい」というのがあるが、物事の終わりとその余韻を大事にする美意識が、器の「水切れの美しさ」も生んできたのかなと思う。それでまた思わず「うわっきれいですね!」と言ったら、西田さんはまた控えめに「一応そういうつもりで作ったんで」。少しうれしそうだった。
 残念ながら、西田健二さんの個展情報などは一切わからず、ご自身のホームページもないようだ。でも、九谷で培った技術を活かしつつ、九谷ではなく無地の青磁・青白磁を作っている、ユニークでさりげない西田さんの器はこれからも見たい。

 実は以前は、青磁というのは何かいやらしいと思っているところがあった。骨董の青磁は時代を経ているからまた別だが、新品だと、わざとらしく静謐さを醸し出そうとしているようで、あの水色・翡翠色も綺麗綺麗しすぎて、料理を引き立てるより自分が主役気取りの器!と決めてかかっていた。でも3年前くらいから、大野耕太郎さん(北海道在住)の精緻だけどかっこいい青磁・黄磁や、高橋昌子さん(岩手在住)の有機的な形とマッチした優しい青磁を見て、少しずつ印象が変わってきてはいた。そこに今回、上品さと可愛さと潔さが同居した西田さんの片口に出会ったことで、青磁のマイナスイメージはどこかへ吹っ飛び、「青磁=この片口」になってしまった。
 
【2006.06.12 Monday 13:15】 author : chiewatabiki
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食べ物が映える器の色とは…
 ギャラリーなどでディスプレイされた時、黒の漆器は地味だ。去年の展示会で、私の角皿も、溜塗のものは赤の漆が透けて色の面白みがあるからか、黒よりも人気があった。
 私としては、黒の器はおかずをきれいに見せてくれるので、漆器を使いこなすなら黒が便利だと思っている。艶消しの黒い器は、飽きずに使えて、しかもただの菜っ葉のおひたしでもお洒落っぽく美味しそうに見えるから、普段づかいでありつつお客さんを招くときにもよい。かっこよくて食卓がしまるのだ。
 片柳草生さんのエッセイにも、(詳しい文面は忘れたが)みそ汁の色を引き立てるのは漆黒なのに、なぜか汁椀といえば朱塗りばかりである、作り手はもっと黒の漆器をたくさん作ってください、という感じのことを書いておられた。やっぱり!そうだ!ほんとに黒の器は使えるんだよなぁ、と味方を得たようだった。

 そうすると、今度は朱の器の存在意義って…と疑問が出てくる。私は朱が大好きだ。漆の朱は最高に落ち着くしあでやかだし、なにか心を満たしてくれる。「いろいろな朱」の項にも朱に魅了されていることを書きました。
 食べ物にとってほとんどの場合、黒が都合がよい。家で使う道具は何につけ、用途が広くて使い勝手のよいものが求められる。朱と黒で言ったら、黒の方が断然使える。じゃあ朱は要らないのかなぁ、ということになってしまう。最近、食事の度にこんなことを思っていた。
 
 そしたら昨日!朱の器に拍手喝采の出来事が!
 何気なく小さなメロンパンを朱の皿に置いたとき、なんて可愛らしい色の組み合わせなんだろう!とうっとりしたのだ。メロンパンは最近メロン果汁が入った高級なタイプもあるが、うちで食べているのはそういううっすら緑とかうっすらオレンジ色がかったものではない。あくまでもうすーい黄色、うすーいクリーム色のメロンパン。それがちょこんと朱塗りの皿に載っかった様の、なんときれいなこと!絶妙の組み合わせ!あたたかくてやさしくて和む色彩だ。その時の皿は、朱塗りといっても朱色系でなく赤系、深紅に近い感じの色だった。たかが100円かそこらのミニメロンパンとたかが日用雑器の朱塗皿だけれど、いい光景だった。日本の子供たちにこういうあたたかい色彩や感触を、原風景として持たせてあげられたら素敵だ。
 そうか、白っぽいものは朱の器に合うのだった。黒があまりにオールマイティなので、朱ならではの良さに意識が行っていなかった。白、もしくは薄い色で暖色系、もしくは(食べ物ではあまりないが)グレー系、こういう色の食べ物はこれから積極的に朱を組み合わせてみよう。黒の器ならメロンパンも美味しく見せてくれるだろうが、朱と合わせたときの魅力には全く勝てない!朱は何でもこなせる器用さはないのだが、時に朱じゃないと出せない空気を作ってくれる個性派俳優の良さなのだった。良さの種類がそれぞれ違うのだ。
 あ、こんにゃくやにんじんの入った豆腐の白和えは絶対に朱だな。思いつくと無性に白和えを食べたくなる。…でも作るの面倒だな。そのうち…。

 漆器に料理を盛りつけた様子を写真に撮ってアップしたい。そうすれば漆器の使い方をみなさんに提案できるし、逆に教えてもらうきっかけにもなるし、自分の器作りのヒントになる。でも残念ながら、先日のパソコン故障のとき、メモリーカードを入れる場所を損傷してしまい、今の環境ではできないようです。いつかパソコンを新調した暁には是非とも。
【2006.04.30 Sunday 14:55】 author : chiewatabiki
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椿の実の箸置き
 今月も時間に追われてしまった。私は何事にもすぐ焦る性格なので、日数の少ない2月はよけいに、何もできなかったような気になります。でも、2月は短いから…と言い訳の材料にもしてしまいます。
 
 何日か前、驚きの情報を耳にした!
 私が定番にしようと3年前から毎年作っている物に「椿の実の箸置き」がある。花が終わった後、初夏に生る椿の実は秋にはぜる。箸置きは、油を採る実そのものでなく、はぜた殻の方に漆を塗るのだ(HP「器」の中に写真掲載)。自然の造形の美しさをそのままもらって、その形を壊さない下地の方法(蒔き地)を何層も重ねて作っている。
 なんと、それと同じ椿の実が、同じように箸置きとして、某老舗塗師屋さんでも製品化されているらしい!「東京ドームのテーブルウェア展に出てたよー」と知人から聞き、なんとも言えずショックだった!
 実はそれはてっきり私のオリジナルだと思っていた。椿の殻を箸置きにする発想を思いついた経緯も自分にとって思い出深かったから、私のトレードマークというか、私の少ない商品の中で「期待の星」とひそかに位置づけていた。
 「でも、私も老舗の漆器屋さんと同じ発想を持っていたと思えば光栄なことですよねぇ。」と返答したものの、本音は「パクられたのでは!?」だった!自信過剰にも!過去2回出品したのがどちらも完売して「はじめての小さな手応え」をもたらしてくれた椿だったから、いくら相手が老舗でも先を越されたならガッカリだ(ToT)
 
 日本人は縄文時代からあらゆるものに漆を塗りまくってきたのだから、たぶん椿の実を漆器にすることなんて本当は独創でもなんでもないのだろう。縄文人か鎌倉時代人かわからないが先祖も椿に塗ったかもしれない。
 漆は動物の皮や骨にも塗られるが、植物をボディとして利用した漆器がだんとつに多い。ほおずきに漆を塗った香合もある。漆自体が樹液だから、漆と草木はたいてい相性が良いのですね。
 今の時代、漆器といえばケヤキやヒノキやトチなど普通の木地の物がほとんどだ。私はそれプラス、草木の実や種や葉や皮など、自然の中にある美しい形やおもしろい質感もやっぱりもっと借りてみたい。そういうバラエティがあることは、みんなが漆を身近に感じられる一つのグッドアイディアでもあるんじゃないかなと思う。いろいろ作ってみます。
 
【2006.02.28 Tuesday 02:12】 author : chiewatabiki
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