私の溜塗 「溜塗とは」続き |
前回「溜塗とは」の続きを予告しておきながら、あっという間に2週間も経ってしまいました。 私、綿引千絵の商品にも実は溜塗のものがあります。定番では角皿シリーズ(角皿五寸、六寸、七寸、八寸、長手角皿)を作っているのですが、それにまつわる話をしたいと思います。 前回、溜塗の種類として「朱溜」と「木地溜」を紹介しました。 溜塗の熱烈なファンというのは結構いらして、そういう方に申し訳ないのですが、私は朱溜というのがどうも苦手です。 木地溜はたいてい好きなのですが。 朱溜の中には色の濃淡がすごく強く出ているものがあって、これが、ひとつ間違えると田舎くさいような、野暮ったい印象を作るなぁと、私は思ってしまうのです。 これは完全に好みの問題だと思いますが、みなさまは朱溜にどんな印象をお持ちになりますか? 『塗りの系譜』(東京国立近代美術館)より 溜塗の「溜」というのは、そもそも、重箱の隅っこなど凹んだ部分に漆が溜まるところから来ている言葉のようです。溜まり部分の漆は濃く見えます。 逆に、上縁などの凸部分は漆が薄くしか付かないので、下層の朱漆が透けて明るく見えます。前回も載せた画像ですが、上記で見るとよくわかるでしょうか。 漆の溜まった部分と薄い部分があるのが溜塗たる所以なのに、私はこの特徴がちょっと苦手、そうなると元も子もないですね。溜塗に「自分は悪くない!」と言われそうです。 もっとも、写真内の増村益城作「乾漆朱溜喰籠」は形も美しいし、上質な漆を使っているはずだし、制作後何十年を経ることで色目もすっかり落ち着いた状態なので、上品で、嫌な感じはまったくありません。 でも世の中に出回っている溜塗は、レベルの高いものばかりではありません。塗りの技術、そして漆の質が伴わないと、色の濃淡が欠点としての“色ムラ”に見えてしまいます。 世の溜塗を云々していないで、自分が高いレベルの溜塗をすればいいだけの話ではあります(難しいですが)。ただ今の時代、プラスティックやウレタン“漆器”の一部に、なんとも雑な雰囲気を醸し出している溜塗もあるので、あの印象に引きずられてしまうのかもしれません。 どうしても朱溜に良い印象を持てない私は、それでも溜塗の奥行きある質感は捨てがたくて、自分なりの溜塗を作りました。こちらです。 角皿 数年間使ったもの 角皿の形状だと、通常は色の濃淡がもっと出るはずです。私の朱溜では、凸のはげしい部分(=ふち)のみ赤く見え、ほかの部分は黒一色に見えます。 溜塗のようであり、溜塗でないようでもあり‥‥。 なぜ普通の朱溜と違うのかというと、企業秘密をばらしますと(大した秘密でもないですが)、仕上げの透き漆に黒漆を混ぜて、透明度を少し落としているからです。だから、よっぽど出っ張ったところしか下層の色が見えないのです。 また、黒いところも、いわゆる漆黒でなく、ほんのり奥まで見通せる黒いサングラス状態なので、やわらかい黒と言えるかもしれません。 自分では、色ムラがないためにスマートさが出せ、でもふちの赤によって多少の愛嬌もあるかな、と思っております。 なんといっても、色調がうるさくないので、料理映えするのではと思います。 チーズ&クラッカーといった乾き物、お刺身、炒め物、パスタなど、なんでも気兼ねなく盛り付けています。 結局最後は宣伝になってしまいました。 色の濃淡という朱溜の醍醐味も放棄し、一見、つまらないかもしれないほど地味な「角皿」ですが、日々の食卓で美しく見え、使い勝手のよいことを求めて行き着いた形と塗りです。一度ご覧いただけましたらうれしいです。 3月13日 品川てづくり市出品予定 ↑お詫び: この投稿のあと状況が変わり、出品できない 見込みとなりました。申し訳ありません。 4月1~14日 浦和「楽風」出品予定 |
【2011.02.21 Monday 09:54】 author : chiewatabiki
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